複合材料(CFRP等)加工の技術課題と工具選定

皆さんこんにちは、アキヤマエヌシーテープセンターの秋山です。

今回は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの異方性を持つ複合材料を加工する際の、層間剥離や工具摩耗への対策を解説します。

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のような複合材料は、軽くて強いという素晴らしい特性から、航空宇宙分野や自動車産業などで利用が広がっています。しかし、その一方で「加工が難しくて、なかなか品質が安定しない」「工具の摩耗が激しくてコストがかさんでしまう」といったお悩みを抱えている技術者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、そんな複合材料の加工における課題、特に層間剥離と工具摩耗という二つの大きな壁を乗り越えるための考え方について、一緒に見ていきたいと思います。

1. なぜ複合材料の加工は難しいのでしょうか?

まず、複合材料の加工がなぜ難しいのか、その理由を簡単に整理してみましょう。一番の理由は、材料の「不均質さ」と「異方性」にあります。CFRPを例にとると、非常に硬い炭素繊維と、それを固めている比較的柔らかい樹脂で構成されています。このように性質の違うものが組み合わさっているため、金属のような均質な材料と同じ感覚で加工することができません。また、繊維の向いている方向によって強度や硬さが変わる「異方性」も特徴です。この特性が、加工時にバリや層間剥離といった特有のトラブルを引き起こす原因となっているのです。

2. 層間剥離(デラミネーション)を防ぐための考え方

複合材料の加工で最も頭を悩ませる問題の一つが、層間剥離(デラミネーション)です。これは、材料の層と層が剥がれてしまう現象のことで、特にドリルで穴を開ける際、刃が材料を突き抜ける瞬間に発生しやすくなります。工具が材料を裏側へ押し出す力(スラスト力)に、積層されたシートが耐えきれずに剥離してしまうのです。この対策の基本は、いかにこの「押し出す力」を小さくするか、という点に尽きます。切削抵抗をできるだけ低減し、繊維をスパッと切断できるようなアプローチが求められます。

3. 工具摩耗を抑えるためのアプローチ

次に、工具摩耗の問題です。CFRPに含まれる炭素繊維は、非常に硬くて研磨性が高い材料です。そのため、金属加工で使う一般的な工具で加工しようとすると、まるで砥石で削られるかのように、あっという間に刃先が摩耗してしまいます。これを「アブレシブ摩耗」と呼びます。工具の摩耗が進むと、切れ味が悪くなって切削抵抗が増大し、結果として層間剥離や加工面の品質低下を引き起こします。この対策には、摩耗に強い材質でできた工具を選ぶことが基本となります。例えば、非常に硬いダイヤモンド粒子でコーティングされた工具や、ダイヤモンドそのものを焼き固めたPCD(焼結ダイヤモンド)工具などが有効な選択肢になります。

4. 具体的な工具選定のポイント

では、層間剥離と工具摩耗の両方に対処するには、どのような工具を選べば良いのでしょうか。まずドリルであれば、先端の形状が特殊なものが有効です。例えば、先端角が二段になっている「ダブルアングルドリル」は、最初に外周から切り込むことで、材料が押し出される力を抑え、層間剥離を防ぐ助けになります。エンドミル加工の場合は、ねじれ刃の向きが上下で逆になっている「コンプレッションルーター」と呼ばれるような工具が効果的です。この工具は、材料の上面を下に引き込む力(ダウンカット)と、下面を上に引き上げる力(アップカット)を同時に発生させます。これにより、材料を上下から挟み込むように切削するため、層の剥がれを効果的に抑制できるのです。

5. 加工条件を見直すことの重要性

最適な工具を選んだとしても、それだけでは十分ではありません。工具の性能を最大限に引き出すためには、加工条件、つまり回転数と送り速度のバランスが非常に重要になります。一般的に、複合材料の加工では、工具の回転数を高くし、送り速度を抑えめにするのが基本とされています。これにより、一刃あたりの切削量を減らし、切削抵抗を低く保つことができます。ただし、回転数を上げすぎると摩擦熱で樹脂が溶けてしまう可能性もあるため注意が必要です。最終的には、使用する工具や機械の特性に合わせて、テスト加工を繰り返しながら最適な条件を見つけ出していく地道な作業が、品質を安定させる鍵となります。

 

ここまで見てきたように、複合材料の特性を正しく理解し、層間剥離や工具摩耗といった課題に対して、工具選定や加工条件の最適化といった適切な対策を講じること。これが、複合材料加工を成功させるための道筋です。これらの技術的な課題を一つひとつクリアしていくことで、部品の品質は安定し、工具の寿命が延びることで加工コストを削減できます。その結果、お客様が求める品質、コスト、そして納期の要求に応えることが可能になり、より付加価値の高いものづくりが実現できるのです。

 

複合材料の加工は確かに難しいものですが、その原因を論理的に分析し、一つずつ対策を立てていけば、決して乗り越えられない壁ではありません。今回お話しした内容が、皆さまが設計や加工作業で直面している課題を解決するための一つのヒントになれば、とても嬉しく思います。技術的な課題は、時に一人で抱え込まず、専門的な知見を持つ人と対話することで、新たな視点や解決策が見つかることもあります。


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