皆さんこんにちは、アキヤマエヌシーテープセンターの秋山です。
今回は、ワークを強固かつ正確に固定するための6点支持の原理を再確認。複雑形状での把持方法と、それが精度に与える影響を考察します。
複雑な形状の部品を加工するとき、「どうやって固定すれば精度が出るんだろう?」「治具の設計にいつも悩んでしまう…」と感じている方はいらっしゃいませんか。特に若手の技術者の方々にとっては、悩みの種の一つかもしれませんね。しっかり固定したつもりが、加工中にわずかに動いてしまい、寸法不良に繋がってしまった経験は誰にでもあるものです。今回は、そんな悩みを解決するヒントとして、加工の最も基本的な原則である「6点支持」に立ち返り、その応用方法について一緒に考えていきたいと思います。
1. すべての基本、「6点支持」の原理を再確認しましょう
まず、基本中の基本である「6点支持(ろくてんしじ)」の原理をおさらいしてみましょう。難しく考える必要はありません。空間にある物体は、大きく分けて6つの方向に動く可能性があります。前後、左右、上下への移動(3方向)と、それぞれの軸を中心とした回転(3方向)です。この合計6つの動きをすべて止めることで、物体は完全に固定された状態になります。これを実現するのが6点支持の考え方です。具体的には、まず3つの点で面を決め(これで上下の動きと2方向の回転が止まります)、次に2つの点で辺に当てて回転を止め、最後に1つの点で位置を決めます。この「3-2-1」の原則が、あらゆるワーク把持の基礎となっているのです。
2. なぜ複雑な形状だと固定が難しくなるのでしょうか
教科書に出てくるような四角いブロックであれば、6点支持はとても分かりやすいですよね。しかし、実際の製品は曲面や斜面、穴や凹凸など、複雑な形状をしていることがほとんどです。こうなると、どこを基準の「3点」にすれば良いのか、どこで「2点」を受ければ安定するのか、途端に難しくなります。平らな面が少ないため、安定した支持点を選びにくく、クランプする場所も限られてしまいます。無理な位置で固定しようとすると、ワークに余計な力がかかって変形してしまったり、加工時の振動でずれてしまったりする原因になるのです。
3. 複雑形状における支持点の考え方と応用
では、複雑な形状のワークを固定するには、どう考えれば良いのでしょうか。大切なのは、6点支持の「形」にとらわれるのではなく、「原理」を応用することです。まずは、その部品で最も精度が求められる面や、加工の基準となる面はどこかを見極めます。その面を安定させることを最優先に考え、支持する3点を選びます。必ずしも平らな面である必要はありません。例えば、Vブロックを使って丸い部分を受けたり、特殊な形状の爪を使ったりして、3つの点で安定した面を作り出すのです。次に、加工時にかかる力(切削抵抗)がどの方向から来るかを予測し、その力に最も効果的に抵抗できる位置に、回転を止める2点と位置を決める1点を配置します。原理を理解していれば、治具の形も自由に発想できるはずです。
4. 把持方法が加工精度に与える直接的な影響
ワークの固定方法は、加工精度に直接的な影響を与えます。例えば、支持点が不安定だと、加工中に微小な振動、いわゆる「ビビり」が発生し、加工面の仕上がりが悪くなってしまいます。また、クランプする力が強すぎたり、不適切な場所を締め付けたりすると、ワークそのものが歪んでしまいます。その歪んだ状態で加工してしまうと、機械から外したときに元の形に戻り、結果として寸法がずれてしまうのです。特に薄い部品や柔らかい材料ではこの影響が顕著に現れます。「強固に固定すること」と「変形させないこと」は、時として相反する要素ですが、このバランスを最適に取ることが、高い精度を実現するための鍵となります。
5. 設計段階から考える、加工しやすい形状とは
もし皆さんが設計にも関わることができる立場なら、ぜひ加工のしやすさも意識してみてください。例えば、固定しにくい形状の部品でも、加工後に取り除く「捨てしろ」のような部分を設け、そこをクランプ面や基準面として利用する設計も有効です。あるいは、加工の基準となる小さな平坦部(治具あたり面)を設けるだけでも、固定の安定性は劇的に向上します。設計者と加工者が早い段階でコミュニケーションを取ることで、より合理的で精度の高いものづくりが実現できるのです。
6. 安定した把持がもたらす品質、コスト、納期への好影響
ここまで見てきたように、6点支持の原理を正しく理解し応用することは、単に精度を出すためだけではありません。安定した把持は、加工中のトラブルを防ぎ、不良品の発生を減らします。これはそのまま品質の向上に繋がりますよね。また、段取り替えがスムーズに進み、加工条件を上げられることで、加工時間も短縮できます。これは、納期の短縮とコストの削減に直結します。一見、地味に見えるワークの固定という工程ですが、実は品質、コスト、納期のすべてを支える、ものづくりの土台となる非常に重要な要素なのです。
最新の高性能な工作機械や工具を導入しても、その性能を最大限に引き出すためには、ワークがびくともしないように、かつ変形しないように固定されていなければ意味がありません。技術がどんなに進歩しても、この物理的な基本原則は変わらないのです。もし今、加工の精度や効率で壁にぶつかっているのなら、一度この「6点支持」という基本に立ち返り、加工方法を見直してみてはいかがでしょうか。きっと、新しい発見や改善のヒントが見つかるはずです。
もし、設計や加工方法のことでお困りでしたら、私たちのような加工の専門家が、その知見を活かして何かお役に立てることがあるかもしれません。
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