切削油剤の冷却・潤滑・排屑機能

皆さんこんにちは、アキヤマエヌシーテープセンターの秋山です。

今回は、切削油が持つ3つの主要な機能が、工具とワークの界面でどのように作用しているか。油剤の種類と材料別の最適な選択基準を解説します。

「工具の寿命が短い気がする」「加工面の仕上がりがなかなか安定しない」「切りくずが絡まって、機械が止まってしまうことがある」。もし、あなたがこのような課題に直面しているなら、その原因は使っている切削油剤にあるのかもしれません。切削油剤は、単に機械を動かすための液体ではなく、加工の品質、コスト、そして納期にまで影響を与える非常に重要な要素です。この記事では、切削油剤が持つ3つの基本的な機能「冷却」「潤滑」「排屑」が、具体的にどのように加工に貢献しているのかを、一つひとつ丁寧に解説していきます。

1. 切削油剤が担う3つの大切な役割

切削加工は、工具で材料を削り取る作業ですが、そのミクロの世界では非常に過酷な現象が起きています。高温、高圧、そして激しい摩擦。これらの問題を解決するために、切削油剤は「冷却」「潤滑」「排屑」という3つの重要な役割を担っています。この3つの機能がバランスよく働くことで、初めて安定した高精度な加工が実現できるのです。それぞれの機能が、工具と材料の間でどのような仕事をしているのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

2. 「冷やす」ことの重要性:冷却機能のメカニズム

金属を削るとき、加工点では数百度、時には千度を超えるほどの高い熱が発生します。この熱は、工具の刃先を鈍らせて摩耗を早めたり、加工している材料を熱で膨張させて寸法精度を悪化させたりする大きな原因になります。切削油剤の「冷却機能」は、この加工点に発生した熱を素早く奪い去り、工具と材料を適正な温度に保つ働きをします。特に、水が主成分である水溶性切削油剤は、熱を奪う能力が非常に高いため、高速で削るような発熱の大きい加工で効果を発揮します。適切に冷却することで、工具の寿命を延ばし、熱による変形を防ぎ、設計通りの精密な部品を作り上げることができるのです。

3. 「滑らせる」ことで守る:潤滑機能の働き

工具が材料に食い込んでいくとき、工具の表面と削られた切りくずとの間には、すさまじい摩擦力が発生します。この摩擦が大きいと、工具の摩耗が進むだけでなく、加工面がむしれたように荒れてしまい、きれいな仕上げ面が得られません。「潤滑機能」は、工具と材料の間に油の膜を作り、この摩擦をできる限り小さくする役割を担っています。いわば、金属同士が直接こすれ合うのを防ぐクッションのようなものです。特に、油が主成分である不水溶性切削油剤は、この潤滑性能に優れています。ステンレス鋼のような粘り気の強い材料や、ねじ切り(タップ加工)のように摩擦が大きくなりやすい加工では、この潤滑機能が品質を大きく左右します。

4. 「洗い流す」力:排屑機能の役割

加工中に出る切りくずは、速やかに加工点から取り除かなければなりません。もし切りくずが絡みついたり、溜まったりすると、工具に巻き付いて破損させたり、せっかくきれいに削った加工面を傷つけたりする原因になります。切削油剤の「排屑機能」は、その流れの力で、発生した切りくずを加工点からスムーズに洗い流す役割です。特に、ドリルで深い穴をあけるときや、細い溝を削るときなど、切りくずが詰まりやすい場面ではこの機能が非常に重要になります。適切な量と圧力で切削油剤を供給することで、切りくずトラブルを防ぎ、連続した安定加工を実現することができます。

5. 材料と加工に合わせた油剤の選び方

では、実際にどのような切削油剤を選べばよいのでしょうか。大切なのは、加工する材料と加工方法に合わせて、「冷却」「潤滑」「排屑」のどの機能を優先したいかを考えることです。例えば、熱を持ちやすい材料を高速で削るなら、冷却性能の高い水溶性タイプが向いています。一方で、ステンレス鋼のような削りにくい材料(難削材)で、きれいな仕上げ面が求められる場合は、潤滑性能に優れた不水溶性タイプが適しています。また、アルミのように化学反応を起こしやすい材料の場合は、材料に影響を与えない成分の油剤を選ぶ配慮も必要です。最適な油剤を選ぶことは、設計者が意図した通りの品質を実現するための第一歩と言えるでしょう。

6. 3つの機能のバランスが品質とコストを決める

ここまで見てきたように、切削油剤の冷却、潤滑、排屑という3つの機能は、それぞれが独立しているのではなく、互いに影響し合いながら加工全体を支えています。このバランスが崩れると、工具寿命の低下によるコスト増、寸法精度の悪化による品質低下、そして切りくずトラブルによる稼働率の低下(納期遅延)につながってしまいます。適切な切削油剤を選び、正しく使用することは、お客様が求める品質、コスト、納期(QDC)を満たすための、目立つけれど非常に重要な技術なのです。

 

切削油剤は、単なる「消耗品」ではなく、加工精度や生産性を向上させるための「技術要素」の一つです。もし今、加工に関する課題を抱えているのであれば、一度、使っている切削油剤の機能や使い方を見直してみてはいかがでしょうか。材料や工具だけでなく、それを支える周辺技術にも目を向けることで、設計上の課題を解決する新たなヒントが見つかるかもしれません。


もし、設計や加工方法のことでお困りでしたら、私たちのような加工の専門家が、その知見を活かして何かお役に立てることがあるかもしれません。

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