加工プロセスの全体設計:荒加工と仕上げ加工の境界線

皆さんこんにちは、アキヤマエヌシーテープセンターの秋山です。

今回は、荒加工と仕上げ加工の削り代(取り代)を決定する論理的根拠を解説。適切な削り代設定が生産効率と品質にどう繋がるかを考察します。

機械加工において、「荒加工と仕上げ加工の削り代(取り代)を、どのくらいの量に設定すれば良いのか」と悩んだ経験はありませんか。経験則でなんとなく決めているけれど、その根拠を問われると自信がない、という方もいらっしゃるかもしれません。削り代の設定は、実は製品の品質、コスト、そして納期に直結する非常に重要な要素です。この設定が不適切だと、精度が出ずに手戻りが発生したり、逆に加工時間が長引いてコストが膨らんでしまったりします。この記事では、そんなお悩みを解決するために、荒加工と仕上げ加工の境界線をどこに引くべきか、その論理的な考え方について、一緒に考えていきたいと思います。

1. 荒加工の目的と、その重要性

まず基本に立ち返って、なぜ加工を「荒加工」と「仕上げ加工」に分けるのかを考えてみましょう。荒加工の最大の目的は、最終的な製品形状に近づけるため、不要な部分を「効率良く、スピーディーに」取り除くことです。もし最初から最終寸法を狙って一気に削ってしまうと、工具に大きな負担がかかり、摩耗が激しくなります。また、大きな力で削ることで発生する加工熱が材料を歪ませたり、材料が元々持っている内部の力(内部応力)が解放されて変形してしまったりする原因にもなります。まずは大まかに形を作ることに専念する。これが、後工程である仕上げ加工をスムーズに進め、最終的な品質を安定させるための、とても大切な第一歩なのです。

2. 仕上げ加工が担う、品質確保という役割

荒加工が「量」を追求する工程だとすれば、仕上げ加工は「質」を追求する工程です。その役割は、製品に求められる「高い寸法精度」と「美しい表面」を実現することにあります。荒加工では、どうしても工具のたわみや前述の熱による変形などで、わずかな寸法のズレが生じてしまいます。仕上げ加工では、このズレを精密に補正し、図面で指示された通りの寸法にきっちりと合わせ込んでいきます。また、製品の機能や見た目に影響する表面の滑らかさ(表面粗さ)も、この仕上げ加工の工程で作り込まれます。まさに、製品の品質を決定づける最後の砦と言えるでしょう。

3. 仕上げ代を決定する、3つの論理的な考え方

では、本題である仕上げ代は、具体的にどう決めれば良いのでしょうか。これには主に3つの論理的な要素が関わってきます。
一つ目は「素材の特性」です。例えば、硬くて削りにくい材料は工具への負荷が大きいため、仕上げ加工で安定した精度を出すために、少し多めに仕上げ代を残すことがあります。逆に、柔らかく変形しやすいアルミのような材料は、荒加工での歪みが大きくなる傾向があるため、その変形分を見越した仕上げ代が必要になります。
二つ目は「製品の形状」です。特に、薄い板状の部分や細長い形状の部品は、加工中に歪みやすい代表例です。このような形状の場合、荒加工でどれくらい変形するかを予測し、その変形量を吸収できるだけの仕上げ代を確保しておく必要があります。
三つ目は、その製品に「要求される精度」です。ミクロン単位の非常に厳しい公差が求められる部品であれば、一度の仕上げ加工では精度が出しきれないこともあります。その場合は、「中仕上げ」という工程を挟み、段階的に精度を高めていくアプローチを取ります。その分、各工程での削り代はより細かく設定することになります。

4. 適切な仕上げ代が、生産効率を大きく左右する

仕上げ代の設定が、なぜ生産効率に繋がるのかを考えてみましょう。もし仕上げ代が少なすぎると、荒加工で付いた工具の跡や、わずかな歪みを取り除くことができず、要求された精度や表面品質を満たせない可能性があります。そうなると、追加工や修正が必要になり、かえって時間とコストがかかってしまいます。一方で、仕上げ代が多すぎるとどうでしょう。仕上げ加工は、精度を出すためにゆっくりと時間をかけて行うのが基本です。削る量が多ければ多いほど、その時間は長くなり、工具の摩耗も進みます。つまり、仕上げ代が過剰であることは、そのまま加工時間の増加とコストアップに直結してしまうのです。荒加工はスピーディーに、仕上げ加工は最小限の時間で。この理想的なバランスを実現する鍵が、適切な仕上げ代の設定にあるのです。

5. 設計段階から加工をイメージすることの価値

もしあなたが設計に携わる方であれば、設計段階で少しだけ加工のことをイメージしていただくと、全体のプロセスがよりスムーズになります。例えば、極端に薄い壁や深い溝のある形状は、どうしても加工中の変形が大きくなりやすく、仕上げ代の管理も難しくなります。もし機能的に問題がなければ、少し肉厚を持たせたり、加工しやすい形状を検討したりすることで、後工程での品質が安定し、結果的にコストダウンに繋がるケースも少なくありません。設計者と加工者が、それぞれの知見を持ち寄ることで、より良いものづくりが実現できるのです。

6. 荒加工と仕上げ加工は一つの流れである

ここまで見てきたように、荒加工と仕上げ加工は、それぞれ独立した工程ではありません。荒加工の品質が仕上げ加工に影響し、そして仕上げ代という境界線の設定が、両方の工程の効率を決定づけます。つまり、一つの製品を完成させるまでの一連の流れとして捉え、プロセス全体を最適化するという視点が不可欠です。この「全体最適」の考え方に基づいて仕上げ代を論理的に設定することこそが、お客様が求める品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)のすべてを満たすための重要な一歩となるのです。

 

この記事では、仕上げ代を設定するための基本的な考え方をご紹介しました。しかし、実際の現場では、使用する機械の性能、工具の種類、そして製品が使われる環境など、さらに多くの要素が複雑に絡み合います。だからこそ、一つの正解があるわけではなく、それぞれの状況に応じた最適な答えを、知識と経験に基づいて導き出すことが求められます。

もし、設計や加工方法のことでお困りでしたら、私たちのような加工の専門家が、その知見を活かして何かお役に立てることがあるかもしれません。

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